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名古屋地方裁判所 平成2年(行ウ)48号 判決 1995年1月31日

名古屋市西区城西四丁目二八番三号

原告

松永尚市

右訴訟代理人弁護士

浅井得次

名古屋西区押切二丁目七番二一号

被告

名古屋西税務署長 桂川明

右指定代理人

加藤裕

同右

荒川登美雄

同右

木村勝記

同右

小田嶋範幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和五三年二月九日付けでした原告の昭和四八年分以降の所得税の青色申告の証人取消処分を取り消す。

2  被告が、原告に対し、昭和五三年四月三日付けでした原告の昭和四八年分の所得税の更正のうち総所得金額二四五五万五三七七円、納付すべき税額八九四万四五〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(いずれも昭和五三年九月二〇日付けの変更決定により減額された後の部分)を取り消す。

3  被告が、原告に対し、昭和五三年四月三日付けでした原告の昭和四九年分の所得税の更正のうち総所得金額三二五一万三五三八円、納付すべき税額一二三一万九九〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(いずれも、平成二年九月一〇日付けの審査裁決により減額れさた後の部分)を取り消す。

4  被告が、原告に対し、昭和五三年四月三日付けでした原告の昭和五〇年分の所得税の更正のうち総所得金額二三九三万九〇五円、納付すべき税額七一一万五〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(いずれも、昭和五三年九月二〇日付けの変更決定により減額された後の部分)を取り消す。

5  被告が、原告に対し、昭和五四年六月一一日付けでした原告の昭和五一年分の所得税の更正のうち総所得金額二五一九三万七六四二円、納付すべき税額七一九万四八〇〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定を取り消す。

6  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四八年分ないし昭和五〇年分の所得税について、別表一ないし三の「確定申告」欄記載のとおり青色確定申告を、また昭和五一年分の所得税について別表四の「確定申告」欄記載のとおり確定申告をした。さらに、原告は、昭和五〇年一月一四日に昭和四八年分の、昭和五一年六月三〇日に昭和四九年分及び昭和五〇年分の、昭和五三年一一月二七日に昭和五一年分の各所得税について、別表一ないし四の「修正申告」欄記載のとおり修正申告をした。

2  被告は、昭和五三年二月九日付けで原告の昭和四八年分以降の所得税の青色申告の承認を取り消し(以下この処分を「本件取消処分」という。)、昭和五三年四月三日付けで昭和四八年分ないし昭和五〇年分の、昭和五四年六月一一日付けで昭和五一年分(以下、昭和四八年分ないし昭和五一年分を「本件各係争年分」という。)の各所得税について、それぞれ別表一ないし四の「更正・賦課決定」欄の記載のとおり更正及び賦課決定をし、昭和五三年九月二〇日付けで昭和四八年分ないし昭和五〇年分の加算税の額につき別表一ないし四の「加算税変更決定」欄記載のとおり変更決定をした(以下、以上の各更正及び賦課決定をまとめて「本件更正等」といい、本件取消処分を含めて「本件各処分」という。)。

3  原告は、本件各処分を不服として、昭和五三年四月七日、本件取消処分に対し、異議申立てをし、昭和五三年六月一日、昭和四九年分及び昭和五〇年分の各更正及び賦課決定に対し、昭和五四年八月八日、昭和五一年分の更正及び賦課決定に対しそれぞれ異議申立てをしたところ、被告は、異議申立て後三か月を経過しても異議に対する決定をしなかったので、原告は、昭和五三年八月三日、本件取消処分について、昭和五三年九月二八日、昭和四八年分ないし昭和五〇年分の各更正及び賦課決定について、それぞれ審査請求をし、昭和五一年分の更正及び賦課決定に対しても、国税通則法八九条一項の規定に基づき、昭和五四年一〇月一日に審査請求がされたものとみなされた。

しかしながら、これに対し、訴外名古屋国税不服審判所長は、平成二年九月一〇日、別表一ないし四の「同裁決」欄記載のとおり、昭和四九年分の更正及び賦課決定を一部取り消したのみで、その他はいずれも棄却する旨の裁決をし、原告は、平成二年九月二一日以降にその裁決謄本の送達を受けた。

4  しかし、本件各処分の手続は違法であり、また、本件更正等は、原告の各係争年分の所得を過大に認定して行った違法なものである。

5  よって、原告は、請求の趣旨1ないし5記載の範囲で本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事業は認め、同4は争う。

三  被告の主張(本件各処分の根拠及び適法性)

1  本件取消処分の根拠及び適法性について

被告係官が、所得税法違反の犯則嫌疑で原告について調査を行った国税査察官から引継ぎを受けた調査資料を調査したところ、以下のとおり、原告は昭和四八年分に係るナショナル会館の売上金額について、その一部を除外するとともに、売上日計表を改竄していた事実が認められた。右事実は所得税法一五〇条一項三号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し」たことに該当することは明らかであるから、被告が行った本件取消処分は違法である。なお、右要件は、青色申告制度の趣旨からして「納税額が過少になっていること」まで要求するものではない。

(一) ナショナル会館の経理担当者であった訴外垣内鉄也(以下「垣内」という。)及び訴外堀内利是(以下「堀内」という。)は、原告の指示により、毎日の売上金の中から、一日当たり一〇万円又は一五万円の現金を取り分け、売上日計表を、正規のものと、それより売上が一〇万円又は一五万円少なく記載するという形で改竄したものとの二部作成するとともに、売上金から除外した金員(以下、売上金から除外した金員を単に「売上除外金」といい、その額を「売上除外額」という)を秘匿していた。

(二) 堀内は、右売上除外金を三重銀行本店(以下「三重本店」という。)において開設した架空人である梶原和豊名義の普通預金口座及び百五銀行四日市駅前支店において開設した架空人である竹山元良名義の普通預金口座を預け入れていた。

2  本件各係争年分の所得金額の根拠について(以下、△はマイナスを表す。)

(一) 昭和四八年分の総所得金額 四一六九万七四三六円

(1) 給与所得金額 七四七万五〇〇〇円

(2) 配当所得金額 二二九万円

(3) 譲渡所得金額 △四三六万四九七五円

(4) 雑所得金額 四八六万七〇二九円

右金額は、原告の昭和四八年分の修正申告書において利子所得として記載されていた金額の四八一万五〇二九円に、訴外一宮信用金庫中村支店(以下「一信中村」という。)の定期積金の給付補填金に係る所得金額五万二〇〇〇円を加算したものでる。

(5) 事業所得金額 三一四三万三八二円

<1> ナショナル会館及び焼肉本町苑(以下「本町苑」という。) 三七三八万四七四五円

Ⅰ 収入金額 四億一四七六万二〇三四円

a 申告額 三億九〇九二万二〇三四円

b 売上除外額 二三八四万円

Ⅱ 必要経費 三億七七三七万七二八九円

右金額は、原告の申告額である。

<2> マツナガ機工(以下「マツナガ機工」という。) △七六五万一四四一円

Ⅰ 収入金額 一四四四万五〇〇〇円

Ⅱ 必要経費 二二〇九万六四四一円

<3> いすずホール(以下「いすずホール」という。)の利益分配金 一六九万七〇七八円

原告の申告額八九万五五七八円との差額八〇万一五〇〇円は、売上除外に係る利益分配金である。すなわち、原告と訴外赤木茂夫は、昭和四八年五月ころ、いすずホールの売上金を除外することを協議し、これを同ホールの責任者である訴外丸山久雄に実行させ、原告は、右売上除外金のうち原告のいすずホールの出資割合である三五パーセント相当額を受領していたものである(この点は、昭和四九年分及び昭和五〇年分についても同じである。)。

(二) 昭和四九年分の総所得金額 七一四二万二八六〇円

(1) 給与所得金額 八五〇万七四〇〇円

右金額は、原告の昭和四九年分の修正申告書において給与所得の収入金額として記載されていた金額に、訴外株式会社ニューキング(以下「ニューキング」という。)の実質的経営者である原告が、昭和四九年一二月にニューキングの売上の一部を受領した際の金額五〇万円を加算し、それを基礎に算出したものである。

すなわち、原告は、ニューキングの売上金の一部を売上日報を改竄するなどの方法により公表帳簿に記載せずに取り分けて、当該売上除外金を架空名義の普通預金口座に預け入れさるなどした後、当該売上除外金を受領したのである(この点については、昭和五〇年分及び昭和五一年分も同じである)。

<1> 申告額 九六八万円

<1> ニューキングからの受領額 五〇万円

<3> 給与所得控除額 一六七万二六〇〇円

(2) 配当所得金額 一六九万二八〇〇円

(3) 雑所得金額 九六万七六七円

右金額は、別表五の一の雑所得金額明細表(昭和四九年分)のとおり関連会社に対する貸付金の受取利息計七八七万三六九〇円から必要経費六九六万四九二三円を控除した金額に、一信中村の定期積金の給付補填金に係る所得金額五万二〇〇〇円を加算したものである。

(4) 利子所得金額 二二万二七〇〇円

(5) 事業所得金額 六〇〇三万九一三九円

<1> ナショナル会館及び焼肉本町苑 六六七七万五三〇九円

Ⅰ 収入金額 五億六五二二万五〇四三円

Ⅱ 必要経費 四億九八四四万九七三四円

原告の申告額四億九九〇三万四七二六円と右金額との差額五八万四九九二円は、雑所得の必要経費として控除した。

<2> マツナガ機工 △一二三五万二九九一円

Ⅰ 収入金額 二七六七万二九〇〇円

Ⅱ 必要経費 四〇〇二万五八九一円

<3> いすずホールの利益分配金 五六一万六八二一円

原告の申告額二三六万五三二一円との差額三二五万一五〇〇円は、売上除外に係る利益分配金である。

(三) 昭和五〇年分の総所得金額 九七四三万二八〇三円

(1) 給与所得金額 二三二二万五二五九円

右金額は、原告の昭和五〇年分の修正申告書において給与所得の収入金額として記載されていた金額に、ニューキングの実質的経営者である原告が、昭和五〇年中にニューキングの売上金から受領した売上除外金一六六〇万六五一一円を加算し、それを基礎に算出したものである。

<1> 申告額 一〇三六万六〇〇〇円

<1> ニューキングからの受領額 一六六〇万六五一一円

<3> 給与所得控除額 三七四万七二五二円

(2) 配当所得金額 六三万四八〇〇円

(3) 雑所得金額 六四六万八六七三円

右金額は、別表五の二(昭和五〇年分)記載のとおり関連会社に対する貸付金に係る受取利息計二三六八万五〇〇九円から必要経費一七二七万六一三六円を控除した金額に、一信中村の定期積金の給付補填金に係る所得金額五万九八〇〇円を加算したものである。

(4) 利子所得金額 二九万九四二円

(5) 事業所得金額 六六八〇万四六四二円

<1> ナショナル会館及び本町苑 五九〇七万六四〇七円

Ⅰ 収入金額 五億二二三四万四五五二円

Ⅱ 必要経費 四億六三二六万八一四五円

原告の申告額四億六三四七万五七四四円と右金額との差額二〇万七五九九円は、雑所得の必要経費として控除した。

<2> マツナガ機工 三五七万四二七一円

Ⅰ 収入金額 六五九三万九八〇〇円

Ⅱ 必要経費 六二三六万五五二九円

<3> いすずホールの利益分配金 四一五万三九六四円

原告の申告額三四九万八四六八円との差額六五万五四九六円は、売上除外に係る利益分配金である。

(四) 昭和五一年分については、後記3の(二)(1)のとおり、推計の必要性及び合理性があり、総所得金額は、五三五七万八〇〇七円である

(1) 給与所得金額 一八一二万円

右金額は、原告の昭和五一年分の修正申告書において給与所得の収入金額として記載されていた金額に、ニューキングの実質的経営者である原告が、昭和五一年中にニューキングの売上金の一部を受領した際の金額一一七〇万円を加算し、それを基礎に算出したものである。

<1> 申告額 九六〇万円

<1> ニューキングからの受領額 一一七〇万円

<3> 給与所得控除額 三一八万円

(2) 配当所得金額 一六九万二八〇〇円

(3) 利子所得金額 一一万六六四八円

(4) 不動産所得金額 六九万二四九円

(5) 事業所得金額 三二九五万八三一〇円

<1> ナショナル会館 五五一八万八八〇七円

Ⅰ 収入金額 三億三一四六万四三〇五円

a 帳簿金額 二億九六五一万四三〇五円

b 売上除外額 三四九五万円

Ⅱ 必要経費 二億七六二七万五四九八円

右金額については、算定の金額となる書類が不十分であり、損益計算の方法により算定することができないため、右収入金額に昭和五一年分と事業内容に変化のない昭和五〇年分の必要経費率八三・三五パーセントを乗じて算定した。

<2> 本町苑 △一〇〇三万二四四二円

<3> マツナガ機工 △一六三〇万六〇〇〇円

株式会社スポートセンタービル(以下「スポートセンター」という。)に対する貸倒損失額である。

<4> いすずホールの利益分配金 四一〇万七九四五円

3  本町各係争年分の各更正の適法性について

(一) 原告の本件各係争年分の総所得金額は、前記2のとおり、昭和四八年分は四一六九万七四三六円、昭和四九年分は七一四二万二八〇六円、昭和五〇年分は九七四三万二八〇三円であり、国税通則法一一八条一項の規定による端数処理後の課税標準額及び税額は、右係争年分の各更正における各課税標準額及び税額(裁決により取り消されたものについてはその後のもの)をいずれも上回るから、右各更正は適法である。

(二)(1) 昭和五一年分については、次のとおり推計の必要性及び合理性があった。

<1> まず、昭和五一年九月二九日、名古屋国税局査察部は、原告に対する所得税法違反の犯則嫌疑で強制調査に着手し、原告の昭和五一年分の帳簿書類を含む多数の証拠物を押収・領置した。昭和五三年二月二八日、同査察部は原告を名古屋地方検察庁に告発し、同時に国税犯則取締法一八条一項の規定に従い、右帳簿書類を含む証拠物を検察官に引き継いだ。したがって、同日以降、これらの物件は同検察庁の管理下に置かれ、査察部の支配管理の及ばないものとなった。

昭和五三年三月八日、右事件につき公訴が提起され、平成元年三月一七日、最高裁の上告棄却決定により判決が確定したが、その間昭和五一年分の帳簿書類は公判に提出されなかった。したがって、帳簿書類は刑事訴訟法上の公判不提出記録として課税庁の調査権の及ばないものとなり、閲覧が不可能であった。

よって、昭和五一年分については実額の把握が不可能であったのであるから、推計の必要性があったものといえる。

<2> 被告は、昭和五一年分におけるナショナル会館の必要経費について、同年と事業内容に変化のない昭和五〇年分における本人比率(昭和五〇年分における必要経費の三億四六〇七万八一二三円を収入金額四億一五一八万六九七二円で除して計算した割合)を用いた比率法を採用したのであるから、推計の合理性がある。

(2) そして、前記2のとおり、昭和五一年分の原告の総所得金額は五三五七万八〇〇七円であり、国税通則法一一八条一項による端数処理後の課税標準額及び税額は、同年分に対する更正における課税標準額及び税額をいずれも上回るから、結局五一年分に対する更正は適法である。

4  本件各係争年分の各加算税の賦課決定の適法性について

(一) 過少申告加算税賦課決定の適法性

被告は、国税通則法六五条二項(昭和五九年法第五号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する正当な理由があると認められる青色申告承認取消処分によ青色申告控除が認められないこととなった部分以外の税額について、同法六五条一項の規定に基づき、過少申告加算税を賦課決定したものであるから、本件各過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(二) 重加算税賦課決定の適法性

次のとおり、原告が国税通則法六八条一項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づき確定申告書を提出していたことは明らかであるから、被告が、同項の規定に基づき右隠ぺい又は仮装した部分の税額を基礎とする部分に係る重加算税をそれぞれ賦課決定した本件各重加算税は適法である。

(1) 原告は、ナショナル会館に係る売上金額の一部、マツナガ機項の売上金額の全部及びいすずホールの売上金額に係る利益分配金の一部を除外して、これらに係る所得を過少に申告していたこと。

(2) 原告は、ニューキングの実質的経営者として同社の売上除外を指示し、右売上除外金を賞与として受領したにもかかわらず受領していないとして、これを隠ぺいし、給与所得金額を過少に申告していたこと。

四  被告人の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1のうち、所得税法一五〇条一項三号に該当する事実については否認する。

また、国税査察官が入手した資料を被告係官が調査したか疑問であるし、仮に、被告係官が国税査察官の調査資料に基づいて調査したとしても、国税査察官による調査は、国税犯則事件の通告処分又は告発を目的として行われ、刑事手続的性格を有するものであるのに対し、所得税法等租税実体法に規定されている調査権は、適正な課税処分を行うための資料を収集することを目的としてされるもので、両者は異なった目的・性格を有し、明確に区別すべきものである。したがって、国税犯則法上の調査によって発見・収集された資料を青色申告の承認取消しに際して使用することはできない。

よって、右資料に基づいてされた本件取消処分は違法である。

2(一)(1) 被告の主張2の(一)のうち、以下に述べるもの以外は認める。

(2) 同2の(一)の総所得金額は、△二八一万六三四三円であり、これを超える部分は否認する。

(3) 同2の(一)のうち、(5)<1>Ⅰの売上除外額は、一〇〇五万円だけであり、これを超える部分は否認する。

また、(5)<1>Ⅱの必要経費が、原告の申告額であることは認めるが、これ以外にも、以下の金額を必要経費として計上すべきである(その結果、ナショナル会館及び本町苑の事業所得金額は、六一〇万九一四五円となる。)。

<1> 訴外清水孝(以下「清水」という。)に対する渡切交際費 二四〇万円

暴力団対策等に支出する費用として、清水に右金員を支払った。

<2> 清水に対する給与以外の配当金 四八〇万円

ナショナル会館の共同経営者である清水に対し、所定給与以外に一か月四〇万円の配当金を渡していた。

<3> 清水に対する特別慰労金 一〇〇〇万円

原告は、清水が訴外菰野信用組合から借り入れた一〇〇〇万円について、昭和四八年一一月から代位して弁済していた。

<4> 本町苑店舗の減価償却費 二八万五六〇〇円

(4) また、同2の(一)<5><2>Ⅰの収入金額は、八九四万五〇〇〇円であり、これを超える部分は否認する。マツナガ機工が、訴外大成観光に納入したパチンコ玉自動補給装置は不良品であったため、七〇〇万円で契約したものの、一五〇万円の入金があったのみで、その余の請求権を行使することができなかったのであるから、五五〇万円については収入金額から除外すべきである。同2の(一)(5)<2>Ⅱの必要経費も否認する。被告認定額以外にも、以下の金額を、必要経費として計上すべきだからである(その結果、マツナガ機工の事業所得金額は、△一九九八万八一二〇円となる。)。

<1> 旅費、販売促進被告人 一八〇万円

マツナガ機工の旅費、販売促進費として、被告認定額以外に右金額を支出している。

<2> アルバイト代金 三〇万円

<3> 仕入金額の漏れ分 二六七万一三七三円

マツナガ機工は、帳簿に不備があり、また、領収書、請求書等の書類の保管が不十分であったため、仕入金額については、被告の認定額以外に右金額が漏れている。

<4> 減価償却費 二〇六万五三〇六円

マツナガ機工が、訴外トーインプレスから仕入れた金型の減価償却不足分である。

(5) 同2の(一)(5)<3>の利益分配金は、八九万五五七八円であり、これを超える部分は否認する。

(6) 以上の他にも、青色申告控除額として、一〇万円を計上すべきであり、この結果、事業所得金額は△一三〇八万三三九七円となる。

(二)(1) 被告の主張2の(二)のうち、以下に述べるもの以外は認める。

(2) 同2の(二)の総所得金額は、三八八二万二八三二円であり、これを超える部分は否認する。

(3) 同2の(二)(1)のうち、原告が、ニューキングの実質的経営者であるとする点及び同社から五〇万円を受領したとする点は否認する。その結果、給与所得控除額は一六三万七六〇〇円となり、給与所得金額は八〇四万二四〇〇円となる。

(4) 同2の(二)(3)の雑所得金額については、被告主張額以外に、原告は、訴外辻井輝夫(以下「辻井」という。)から二〇〇〇万円を借り入れており、その利子割引料三〇〇万円を被告主張額から控除すると、雑所得は発生していない。

(5) 同2の(二)(5)<1>Ⅱは否認する。申告額四億九九〇三万円四七二六円以外にも、以下の経費が存在する(その結果、ナショナル会館及び本町苑の事業所得金額は五六八〇万一三一七円となる。)。

<1> 清水に対する渡切交際費 三六〇万円

昭和四八年分と同趣旨で清水に支払った。

<2> 清水に対する配当金 四八〇万円

昭和四八年分と同趣旨で清水に支払った。

<3> 本町苑店舗の地代 五〇万円

<4> 本町苑店舗の減価償却費 四八万九〇〇〇円

(6) 同2の(二)(5)<2>Ⅰの収入金額は、二三四七万二九〇〇円であり、これを超える部分は否認する。マツナガ機工は、訴外新進観光開発株式会社に対し、パチンコ玉自動補給装置を売却したが、その代金は七〇〇万円であって、被告は四二〇万円過大に計上している。また、同2の(二)(5)<2>Ⅱの必要経費についても否認する。被告認定額以外もに、以下の金額を必要経費として計上すべきだからである(その結果、マツナガ機工の事業所得金額は△三〇二〇万一七〇六円となる。)。

<1> 旅費、販売促進費 三一〇万円

パチンコ玉自動補給装置を販売する際に要した旅費・宿泊費八〇万円、原告の主張旅費五〇万円が計上漏れになっている。また、九州地方の販路拡張を訴外荒田徳二(以下「荒田」という。)に依頼し、同人にその費用として一八〇万円を支払っている。

<2> アルバイト代 三〇万円

<3> アルバイトの退職金 三八万円

<4> 接待交際費 八〇万円

<5> 仕入金額の漏れ分 一〇九万九五一五円

<6> 消耗品費 七六六万九二〇〇円

マツナガ機工がトーインプレスから仕入れた金型の消耗品の計上漏れ分である

<7> 雑費 三〇万円

荒田に支払った。

(7) 同2の(二)(5)<3>の利益分配金は、二三六万五三二一円であり、これを超える部分は否認する。

(8) その他、青色申告控除額一〇万円を計上すべきであり、その結果、事業所得金額は二八八六万四九三二円となる。

(三)(1) 被告の主張2の(三)のうち、以下に述べるもの以外は認める。

(2) 同2の(三)の総所得金額は、四一一万六六六一円であり、これを超える部分は否認する。

(3) 同2の(三)(1)のうち、原告が、ニューキングの実質的経営者であるとする点及び同社から一六六〇万六五一一円を受領したとする点は否認する。その結果、給与所得控除額は二〇八万六六〇〇円となり、給与所得金額は八二七万九四〇〇円となる。

(4) 同2の(三)(3)の雑所得金額については、被告主張額以外に、原告は、辻井から二〇〇〇万円を借り入れており(これは、昭和四九年と同じ)、その利子割引料二五〇万円を被告主張額から控除すると、雑所得は発生していない。

(5) 同2の(三)(5)<1>Ⅱは否認する。申告額四億六三四七万五七四四円以外にも、以下の経費が存在するからである(その結果、ナショナル会館及び本町苑の事業所得金額は四八五七万九八〇八円となる。)。

<1> 清水に対する渡切交際費 三六〇万円

昭和四八年分と同趣旨で清水に支払った。

<2> 清水に対する配当金 四八〇万円

昭和四八年分と同趣旨で清水に支払った。

<3> 本町苑店舗の地代 一二〇万円

<4> 本町苑店舗の減価償却費 四八万九〇〇〇円

<5> 雑費 二〇万円

本町苑に関する訴訟のため、訴外村瀬尚男弁護士に支払ったものである。

(6) 同2の(三)(5)<2>Ⅰの収入金額は、四九六三万九八〇〇円であり、これを超える部分は否認する。マツナガ機工がスポートセンターに売却したパチンコ玉自動補給装置は、当初から欠陥品であって、売買代金一六三〇万円を計上すべきではない。また、同2の(三)(5)<2>Ⅱの必要経費についても否認する。被告認定額以外にも、以下の金額を必要経費として計上すべきだからである(その結果、マツナガ機工の事業所得金額は△一七五二万五二四四円となる。)。

<1> 販売促進費 一八〇万円

訴外ヤサカにパチンコ玉補給装置を販売するに際して要した費用である。

<2> 旅費、交通費 七〇万円

原告が、北海道等へ主張した旅費、交通費である。

<3> アルバイト代 三〇万円

<4> 仕入金額の漏れ分 一〇九万九五一五円

<5> 損金 九〇万円

マツナガ機工は、昭和五一年一月に法人成りしており、個人事業を廃業し、法人に引き継ぐ場合には、所得税法六三条に基づき、除却した金型等の損金分を差し引くべきであるが、右金額は、金型等の除却損である。

(7) 同2(三)(5)<3>の利益分配金は、三四九万八四六八円であり、これを超える部分は否認する。

(8) その他、青色申告控除額一〇万円を計上すべきであり、その結果、事業所得金額は三一九五万三〇三二円となる。

(四) 被告の主張2の(四)については、後記(五)(4)のとおり推計の必要性及び合理性を争う。金額の認否及び実額は、次のとおりである。

(1) 同2の(四)のうち、以下に述べるもの以外は被告主張額のとおりである。

(2) 同2の(四)のうち、総所得金額は、一三四七万六二四八円である。

(3) 同2の(四)(1)のうち、原告が、ニューキングの実質的け経営者であるとする点及び同社から一一七〇万円を受領したとする点は否認する。その結果、給与所得控除額は二〇一万円となり、給与所得金額は七五九万円となる。仮に、昭和五一年二、三月ころから売上除外がされていたとしても、ニューキング開店のために要した埋立代、舗装代、井戸代金、暴力団との解決金など、ニューキングが支出すべき金員を原告が立て替えており、それを返済するためと、訴外近藤弘と清水が機密費として一か月一〇万円と五万円を受領するためにされたものであるから、むしろ経費となるものであって、原告の給与所得金額には結びつかない。

(4) 同2の(四)(5)<1>Ⅰの収入金額は否認する。実際は三億三一五六万四三〇五円である。また、同2の(四)(5)<1>Ⅱの必要経費の額も否認する。実際は三億二〇五六万四二五七円である(その結果、ナショナル会館の事業所得金額は一一〇〇万四八円となる。)。

(5) 同2の(四)(5)<2>の額は否認する。被告認定額以外にも以下の金額を経費として計上すべきだからである(その結果、本町苑の事業所得金額は△一一七二万一四四二円となる。)。

<1> 未払地代 一二〇万円

<2> 減価償却分 四八万九〇〇〇円

(6) 同2の(四)(5)<3>は否認する。仮に、マツナガ機工のスポートセンターに対する売上代金が事後的に回収不能になったものであるとしても、その未回収金については、所得税法六三条により、昭和五〇年分に算入すべきである。

(五) 被告の主張3は争う。

(1) 本件各更正を行うに当たり、被告の調査担当職員は、原告及びその関係者に全く接触することなく、また、原告の帳簿書類の調査も行わないで、国税査察官の調査資料のみに基づいて判断した。国税査察官の調査は、国税通則法二四条の「調査」に該当せず、また、国税査察官は、同法二七条における「当該職員」には該当しないので、所得税の課税標準等の調査について国税犯則取締上の調査手段を用いることは許されず、これを用いて行った本件各更正は違法である。

(2) 昭和四八年分及び昭和四九年分の各更正は、国税通則法七〇条一項の期間(確定申告期限の翌日から三か年)の経過後にされており、違法である。

(3) 被告は、原告の昭和四九年分ないし昭和五一年分に対する給与所得について、訴外四日市税務署長によるニューキングに対する源泉所得税の納税告知に基づいて更正を行ったものであるから、右納税告知が数回にわたり変更されている以上、原告に対する更正もその都度変更されるべきであったのに、これをあてかったことは違法である。

(4) 昭和五一年分については、推計の必要性に欠ける。訴外加藤茂樹は、査察事件の担当官であった訴外川上栄一のところに赴き、同人が所持していた帳簿書類を閲覧し、決算書を作成しているのであるから、実額把握は可能であった。

また、推計については財産増減法を用いておらず、推計の合理性もない。

五  原告の反論に対する被告の認否・反論

1  原告の反論1については争う。

青色申告承認の取消処分をするに当たり、査察事件の資料を利用することも許容されるものである。

所得税法二三四条の規定(質問調査権)は、税務調査の一方法として質問検査を行う権限を求めたものであり、決して必要もないのに質問検査を行うことを義務付ける規定ではない。

また、被告係官である高味廣典、加藤満治は、国税査察官から提供を受けた調査情報をもとに討議、検討の結果、関係者に接触するまでもなく、青色申告承認取消事由の存在を裏付ける資料が十分に揃っていると正当に判断したのであり、その点で独自の調査を行っているといえる。

2  原告の反論2の(一)(3)の申告額以外にも必要経費が存在するとする点については、否認する。

清水に対する特別慰労金については、その代位弁済は清水に対する退職手当金の支払の趣旨で始められたものであって、清水が実際に退職したのは昭和五二年一二月なのであるから、同月以前の代位弁済は退職手当金の前払いに過ぎない。そうだとするれば、代位弁済の都度、清水に対する前払金返還請求権という金銭債権を取得していたものであって、代位弁済は原告の所得(損益)の計算上何ら影響を及ぼすものではなく、実際に清水が退職した昭和五二年一二月の時点をもって、必要経費として控除すべきである。

3  同3の(一)(4)の五五〇万円を収入金額から除外すべきであるとすると原告の主張は、被告も訴外大成観光からの入金を一五〇万円と認定しているのであるから、失当である。また、被告認定額以外にも計上すべきであるとする必要経費の存在については否認する。

4  同2の(一)(6)の、青色申告控除額については、青色取消しがされたのであるから、採用できない。

5  同2の(二)(4)の、原告が辻井から二〇〇〇万円を借り入れたとする点は否認する。辻井からの二〇〇〇万円は、原告が経営する訴外オークランド観光株式会社(以下「オークランド」という。)が借り受けたものである。

6  同2の(二)(5)の申告額と被告主張額との差額は、支払利息であり、被告はこれを雑所得の必要経費として控除している。申告額以外にも必要経費が存するとする点は、否認する。清水に対する特別慰労金については右2と同じである。

7  同2の(二)(6)の、被告認定額以外にも必要経費が存在するとする点については否認する。

8  同2の(二)(8)については、右4と同じである。

9  同2の(三)(4)については、右5と同じである。仮に、原告が、辻井に対し、利子割引料を支払っていたとしても、これは原告のオークランドに対する立替金(資産勘定)と評価すべきであって、雑所得から差し引くべき費用(費用勘定)とは到底認められない。

10  同2の(三)(5)の、申告額と被告主張額との差額は、支払利息であり、被告はこれを雑所得の必要経費として控除してる。申告額以外にも必要経費が存在するとする点は否認する。

11  同2の(三)(6)について、マツナガ機項のスポートセンターに対する売上は、請求書も発行されている上、マツナガ機工は、昭和五〇年一二月二日付けでスポートセンターに内容証明郵便を発送して支払を催告し、昭和五一年にはスポートセンターに対して支払請求訴訟を提起し、同年一〇月六日に勝訴判決を得ているなどの事実から、昭和五〇年に売上債権が存在したことは明らかであり、当初から請求権がなかったものであるということは到底できない。事後的に回収不能となったのであれば、それが明らかとなった昭和五一年に貸倒損失として同年分の事業所得の計算上必要経費に算入されるべきである。

被告認定額以外にも必要経費が存在するとする点については否認する。

しかも、原告は、金型の除却損について所得税法六三条を適用して昭和五〇年分の損金に計上すべきであると主張するが、複数の事業を営む納税義務者がその一部の事業を廃止しただけにとどまり、引き続いて他の事業から収入を得ていた場合は、同条の「事業を廃止した場合」には該当せず、同条を適用できないと解すべきであるところ、原告は、昭和五一年中も引き続きナショナル会館、本町苑、いすずホール等の事業を営み、収入を得ていたのであるから、同条を適用できない。したがって、右主張は失当である。

12  同2の(三)(8)については、右4と同じである。

13  同2の(四)(3)のうち、売上除外金は、原告がニューキングの経費となるべきものを建て替え、それを回収するためのものであるとの点については、前提となる経費を具体的に主張立証しない限り失当である。

14  同2の(四)(4)の実際の必要経費額であるとする点は否認する。

15  同2の(四)(5)の、被告認定額以外にも必要経費が存在するとの点は否認する。

16  同2の(四)(6)については争う。

右11で述べたとおり、マツナガ機項のスポートセンターに対する売掛金の貸倒れ損失につき、所得税法六三条を適用することはできないし、同法一五二条により、損失又は費用の生じた日の翌日から二か月以内に更正の請求を行わなければならないにもかかわらず、原告は右手続を履践していないのであるから、手続的にも同法六三条を適用する前提を欠いている。

17  同2の(五)(1)は争う。

課税庁が内部的に収集した資料に基づいて課税標準等を認定することも、裁量権の範囲内の調査方法として当然に許されるのであり、かかる調査方法により更正又は決定するために必要な資料が既に収集されていると認められる場合には、改めて調査をすることなく更正又は決定をしても、これをもって違法とすることはできない。そして、更正又は決定をするに当たり、査察事件の資料を利用することも許されるものであって、所得税法二三四条の質問権の行使を経由しなくても違法とはならない。

18  同2の(五)(2)は争う。

国税通則法七〇条二項四号(昭和五六年法第五四号による改正前のもの)における「偽りその他不正の行為」とは、ほ脱の意思をもってその手段として税の賦課を不能又は著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行うことをいうところ、原告の指示に基づいてされた垣内及び堀内の売上除外の所為は、これに該当するから、同条により除斥期間は五年となり、昭和四八年分及び昭和四九年分の各更正は、除斥期間内にされていることになる。

19  同2の(五)(3)は争う。

源泉所得税の納税告知処分と所得税の更正は、その目的・性質を異にする全く別個の処分であり、源泉所得税の納税告知処分が取り消されたからといって、これに合わせて更正も取り消されるべきであるとの主張は相当でない。

20  同2の(五)(4)は争う。

推計方法として、財産減法を利用すべきであると主張するが、財産増減法は、推計課税の一方法に過ぎず、採用したある推計方法が合理的であることが立証された以上は、これに加えて他の推計方法によって算出される金額との比較検討まで要求されるものではない。

六  被告の反論に対する原告の再反論

マツナガ機工が得た勝訴判決は、いわゆる欠席判決であって、スポートセンター側には支払の意思が全くなかった。マツナガ機工が訴えを提起したのは、スポートセンターが損害賠償請求をする旨言明していたので、これに対抗するためであり、代金回収が予定したものではない。

被告は、昭和四八年分の訴外大成観光に対する売上金について減縮して認定したのであれば、スポートセンターに対する売上金についても同様の処理をすべきである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。(なお、甲第二三号証は、甲第一二号証と同一である。)

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件取消処分の適法性について

1  証拠(乙三、四、八)と弁論の全趣旨によれば、垣内は、ナショナル会館の経営者である原告の指示により、昭和四七年中から昭和四八年六月までナショナル会館の売上の中から一日当たり一〇万円を除外し、垣内の後任者である堀内も、垣内からの引継ぎにより同年六月ころから一日当たり一〇万円を、同年一〇月ころからは原告の直接の指示により一日当たり一五万円を除外していたこと、そして、垣内及び堀内は、正規の売上額より一〇万円又は一五万円少ない売上日計表を作成していたことが認められる。

そうすると、垣内及び堀内は自己の職務として右売上日計表を作成していたものと認められるから、売上除外が雇主である原告の指示によることからして、右のような内容の売上日計表も原告の意思に基づき作成されていたものと認められる。したがって、原告には、昭和四八年におけるナショナル会館の売上金額について、所得税法一五〇条一項三号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し」たという青色申告承認の取消事由があることになる。

2  そして、証拠(証人加藤満治)及び弁論の全趣旨によれば、被告係官高味及び同加藤において国税査察官から提供を受けた査察資料を分析・検討した結果、原告について昭和四八年分以降の所得税の青色申告承認を取り消すべき事由があるという結論に達し、本件取消処分がされるに至ったことが認められる。

3  したがって、本件取消処分に違法はない。

なお、原告は、国税犯則法上の調査と所得税等租税実体法に規定された調査とは目的・性格が異なり、前者によって発見・収集された資料を青色申告の承認取消しに際して使用することはできないから、本件取消処分は、違法である旨主張する。

しかしながら、前者によって発見・収集された資料を青色申告の承認取消しに利用することを否定すべき理由はないから(最高裁昭和六三年三月三一日第一小法廷判決)、右主張は失当である。

三  昭和四八年分の総所得金額

1  給与所得金額、配当所得金額、譲渡所得金額及び雑所得金額については、当事者間に争いがない。

2  事業所得金額について

(一)  ナショナル会館及び本町苑に係るもの

(1) 収入金額について

申告額が三億九〇九二万二〇三四円であることは当事者間に争いがないので、以下申告額以外の売上除外額について検討する。

証拠(乙三、四、八ないし一一)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

<1> ナショナル会館の経理担当者であった垣内は、昭和四七年六、七月ころ、原告から「ナショナル会館の毎日の売上から一〇万円を抜いてくれ。」と指示され、それ以降ナショナル会館全体の毎日の売上金から一〇万円ずつ抜き、一旦ナショナル会館二階事務所の金庫へ保管し、原告が来たときに直接渡していた。

<2> 昭和四八年六月上旬ころ、原告の命令でナショナル会館の経理を担当することになった堀内は、前任者である垣内から「毎日の売上からパチンコ部門で八万円、サウナ部門で二万円を現金で抜き、抜いた現金を別に保管しておいて松永社長が店に来た時これを渡すことになっている。」旨の引き継ぎを受け、同月六日から同年一〇月ころまでの間、毎日の売上金から抜いた現金を手元に保管して、原告がナショナル会館へ来たときや、原告の遣いの者が来たときにこれを渡していたが、同年一〇月、原告から「これからは毎日一五万円を売上から抜いてその金を俺に渡してくれ。」と指示されたので、同年一〇月一五日以降は、毎日、パチンコ部門の売上より一五万円ずつ現金を抜き、同年一〇月一六日から昭和四九年一〇月一一日までの間は、一旦、三重本店に開設した架空人梶原和豊名義の普通預金口座へ預け入れた上、後日これを同口座から引き出して、ナショナル会館の事務所で原告又は原告の遣いの者に渡していた。

<3> 以上の各売上除外額を合計すると、別表六の昭和四八年分ナショナル会館売上除外額明細表記載とおり二三八四万円となる。

なお、甲第四号証は、昭和四八年一〇月一六日以降三重本店に預け入れられた売上除外額を記載したものであって、右<1><2>において判示したとおり昭和四七年中から売上除外がされていたことからして、昭和四八年売上除外額がその記載額に限定されるものでないことは明らかである。

(2) 必要経費について

申告額が三億七七三七万七二八九円であることは、当事者間に争いがないので、以下、原告の主張する簿外経費の存否について検討する。

<1> 清水に対する渡切交際費 二四〇万円

清水に対して右金員が支払われたことを認めるに足りる証拠はない。

<2> 清水に対する給与以外の配当金 四八〇万円

この点に関する甲第三号証(清水の証人調書)、甲第一四号証(被告人供述調書)、甲第二〇号証(被告人供述調書)は、乙第一四号証(質問てん末書)に照らしてたやすく採用することはできず、他に右配当金の支払を認めるに足りる証拠はない(原告本人は、利益の一割五分を清水に支払っており、甲第四号証の「清水への支払い」が右配当金だと思うと供述する。しかし、右供述内容は、配当率の点で甲第二〇号証と一致していないばかりでなく、甲第四号証には「清水への支払い」として記載されている額に四〇万円という金額の記載はない。また、配当率が決まっていた旨の供述内容は、配当金は四〇万円であった旨の甲第三号証の記載(清水の証言)と矛盾する。したがって、右供述は、信用することができない。)。

なお、証拠(乙八、一一)には、昭和四八年六月二〇日にナショナル会館の売上除外金の中から清水に三〇万円が支払われた旨の記載があるが、右各証拠と照らしても、いかなる名目で支払われたものか明らかではなく、業務との関連性が不明確であるから、仮にその支払が認められるとしても、これをもって必要経費と認めることはできない。

<3> 清水に対する特別慰労金 一〇〇〇万円

証拠(甲三、五、一四、一六、二〇、原告本人)によれば、原告は、清水の退職金の前渡しという趣旨で、清水が訴外菰野信用組合から借り入れた一〇〇〇万円の返済を肩がわりしたことが認められ、その事実からすると、右一〇〇〇万円は、清水が実際にナショナル会館を退職した昭和五二年分の経費として計上すべきものである。

よって、右額は、昭和四八年分のナショナル会館の経費とすることはできない。

<4> 本町苑店舗の減価償却費 二八万五六〇〇円

原告が、昭和四八年当時、右店舗の所有者であったことを認めるに足りる証拠はないから、右金額をもって本町苑の経費として認めることはできない。

(二)  マツナガ機工に係るもの

(1) 収入金額

証拠(乙四一)によれば、昭和四八年分のマツナガ機工の収入金額は、一四四四万五〇〇〇円と認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

この点、原告は、マツナガ機工の訴外大成観光に納入したパチンコ玉自動補給装置の売上を一五〇万円とすべきであると主張するが、これについては被告も争っておらず、右認定額を左右するものではない。

(2) 必要経費について

原告の主張する必要経費については、いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。

なお、甲第一号証(裁決書)は、国税不服審判所長の判断を示したものに過ぎず、右判断を裏付ける具体的な証拠がない以上、右証拠をもって、旅費、販売促進費として一八〇万円を支出したとの事実を認めることはできない。

(三)  いすずホールの利益分配金 一六九万七〇七八円

右金額のうち八九万五五七八円については当事者間に争いがないが、乙第一三号証(調査報告書)と弁論の全趣旨によると、原告は、昭和四八年中に、いずずホールから合計一六九万七〇七八円の利益分配金を受け取ったものと認められる。

(四)  青色申告控除額 一〇万円

前記二において判示したとおり、本件取消処分には何ら違法はないから、右金額を事業所得金額から控除することはできない。

3  したがって、昭和四八年分の総所得金額は四一六九万七四三六円と認められる。

四  昭和四九年分の総所得金額について

1  配当所得金額及び利子所得金額は、当事者間に争いがない。

2  給与所得金額について

被告が主張する給与所得金額の計算の前提となる収入金額のち、九六八万円については当事者間に争いがないので、以下、原告が、それ以上にニューキングから五〇万円を受領したかどうかについて検討する。

(一)  証拠(甲一二、一三、二一、乙一、四、五、三四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、ニューキング設立の際の資本金三〇〇万円のうち、二四〇万円を原告が出資したこと、ニューキングの経理係であった堀内や訴外神谷利夫(以下「神谷」という。)は、原告のことを「松永社長」、「松永会長」と呼んでいたこと、そして、原告からの売上金の一部を除外すべき旨の指示に従ったこと、原告は、ニューキングに出かけて、神谷の支払をチェックしたことがあることが認められ、以上の事実によると、原告は、ニューキングの実質的経営者であったものと認められる。

したがって、原告は、ニューキングとの関係で法人税法施行令七条一号の「法人の使用人以外の者で法人の経営に従事している者」と認められ、法人税法二条一五号に規定する「役員」に該当することになる。

(二)  そして、証拠(甲二〇、二一、二二、乙三、四、五、三五)と弁論の全趣旨によると、原告は、ニューキングの経理係であった堀内に対し、売上金のうちから毎日五万円を除外するよう指示し、ナショナル会館において堀内から、昭和四八年一二月七日から同年末までの間に、別表七の賞与支払等期別明細表記載のとおり五〇万円の売上除外金を受領したことが認められ、証拠(甲二〇、二二、原告本人)中、右認定に反する部分は、乙第四号証(供述調書)及び乙第五号証(供述調書)に照らし採用することができない。

したがって、給与所得の前提となる収入金額は合計一〇一八万円となり、給与所得控除額が一六七万二六〇〇円を差し引くと、給与所得額は、八五〇万七四〇〇円となる。

3  雑所得について

被告主張額の根拠事実については当事者間に争いがない。そこで、以下、被告主張額から、辻井からの借入金二〇〇〇万円に対する利子割引料三〇〇万円を控除すべきかどうかについて検討する。

証拠(甲一五、乙一五、乙四二の一ないし三、乙四三)及び弁論の全趣旨によれば、原告の経営するオークランドの従業員であった訴外吉光道好は、昭和四九年七、八月ころ、原告の指示により、オークランドが振り出した二〇〇〇万円の手形を預り、同年九月三〇日、辻井から右手形と引き換えに二〇〇〇万円(二〇〇万円天引)を借り受けたこと、利息一〇〇万円の支払及び元金の返済はオークランドが行ったことが認められ、原告が、右二〇〇〇万円を借り受けたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、利子割引料三〇〇万円を被告主張額から控除することはできない。

4  事業所得金額について

(一)  ナショナル会館及び本町苑に係るもの

(1) 収入金額について

収入金額が五億六五二二万五〇四三円であることは、当事者間に争いがない。

(2) 必要経費について

原告の主張する清水に対する渡切交際費、配当金及び特別慰労金、本町苑店舗の減価償却費については、昭和四八年分に関し前記三の2(一)(2)において判示したのと同じ理由で、いずれも必要経費と認めることはできず、また、本町苑の地代五〇万円の支払については、これを認めるに足りる証拠がない。

なお、甲第四号証(金銭出納帳)には昭和四九年中に、ナショナル会館の売上除外金の中から清水に計二九〇万円の支払がされたかのような記載があるが、その記載からは、右金額が、いかなる名目で支払われたものか明らかではなく、業務との関連性が明確でないので、仮に、その支払の事実があったとしても、これを必要経費として認めることはできない。

(二)  マツナガ機工に係るもの

(1) 収入金額について

被告主張額の二七六七万二九〇〇円のうち、二三四七万二九〇〇円の範囲内では当事者間に争いがない。

そして、原告は、マツナガ機工の訴外新進観光開発株式会社に対するパチンコ玉自動補給装置の売上金額一一二〇万円は、実際は七〇〇万円であって、被告主張額は四二〇万円が過大に計上されていると主張する。しかし、証拠(乙一六ないし二〇)によれば、右補給装置を買い受けた新進観光の総勘定元帳には取得価額が一一二〇万円と記載されており、右金額に基づいて減価償却計算がされていること、さらに新進観光から右補給装置の譲渡を受けたニューキングにおいても、右計算結果に基づいてさらに減価償却計算が続けられていたことが認められ、以上の事実からすると、マツナガ機工が右装置を新進観光に販売したときの代金は一一二〇万円であったものと認められ、この認定に反する証拠(甲一四、一七、証人加藤、原告本人)は、右各証拠に照らし採用できない。

(2) 必要経費について

原告は、被告主張額以外に、以下の必要経費が計上漏れであったと主張するので、この点につき検討する。

<1> 旅費・販売促進費 三一〇万円

証拠(甲一九)によれば、荒田得二は、昭和四九年中、原告から販路拡張のための費用として二二〇万円の支払を受けたことが認められる。しかし、旅費・宿泊費八〇万円及び原告の主張費用五〇万円については、これを認めるに足りる証拠がない。

<2> アルバイト代 三〇万円

その支払を認めるに足りる証拠はない。

<3> アルバイトの退職金 三八万円

その支払を認めるに足りる証拠はない。

<4> 接待交際費 八〇万円

その支払を認めるに足りる証拠はない。

<5> 仕入れ漏れ 一〇九万九五一五円

その支払を認めるに足りる証拠はない。

<6> 消耗品費 七六六万九二〇〇円

その支払を認めるに足りる証拠はない。

<7> 雑費 三〇万円

その支払を認めるに足りる証拠はない。

(三)  いすずホールの利益分配金 五六一万六八二一円

右金額のうち、二三六万五三二一円については当事者間に争いがないが、証拠(乙一三)及び弁論の全趣旨によると、原告は、昭和四九年中に、いすずホールから合計五六一万六八二一円の利益分配金を受け取っていたものと認められる。

(四)  青色申告控除額 一〇万円

前記二で判示したとおり、本件取消処分には何ら違法はないから、右金額を事業所得金額から控除することはできない。

5  したがって、昭和四九年分の総所得金額は、六九一一万二八〇六円と認められる。

五  昭和五〇年分の総所得金額について

1  配当所得金額及び利子所得金額については、当事者間に争いがない。

2  給与所得金額について

証拠(甲二〇、二一、二二、乙三、四、五三五)及び弁論の全趣旨によると、原告は、昭和四九年と同様、昭和五〇年中もニューキングから売上除外金を受け取っていたこと、その金額は、別表七のニューキング賞与支払等期別明細表記載のとおり合計一六六〇万六五一一円であることが認められる。

したがって、収入期は、申告額一〇三六万六〇〇〇円と合わせて二六九七万二五一一円となり、給与所得控除額三七四万七二五二円を差し引くと、給与所得期は、結局二三二二万五二五九円となる。

3  雑所得金額について

被告主張額の根拠事実については、当事者間に争いがない。

そして、原告の主張する辻井に対する利子割引料二五〇万円については、前記四の3で検討したように、原告と辻井は直接法律関係に立つものではないから、仮に原告が、辻井に対して、利子割引料として二五〇万円を支払ったとしても、これを原告の事業資金の借入金に対するものとして雑所得額から控除することはできない。

4  事業所得金額について

(一)  ナショナル会館及び本町苑に係るもの

(1) 収入金額について

収入金額が、五億二二三四万四五五二円であることは、当事者間に争いがない。

(2) 必要経費について

清水に対する渡切交際費及び配当金、本町苑の減価償却費は、昭和四八年分に関し前記三の2(一)(2)において判示したのと同じ理由で、いずれも必要経費として認めることはできない。また、本町苑店舗の地代は、これを認めるに足りる証拠はなく、訴外村瀬尚男に対する弁護士費用についても、昭和五〇年分の必要経費として支払われたことを認めるに足りる証拠はない。

なお、甲第四号証(金銭出納帳)には、昭和五〇年中、ナショナル会館の売上除外金から清水に計一六〇万円の支払がされたかのような記載があるが、その記載からは、右金額が、いかなる名目で支払われたか明らかでなく、業務との関連性が明確でないので、仮に、その支払の事実があったとしても、これを必要経費として認めることはできない。

(二)  マツナガ機工に係るもの

(1) 収入金額について

被告主張額のうち、四九六三万九八〇〇円の範囲内では当事者間に争いがない。そこで、マツナガ機工がスポートセンターに売却したパチンコ玉自動補給装置の残代金一六三〇万六〇〇〇円を計上すべきかどうかについて検討する。

証拠(甲八ないし一〇)によれば、マツナカ機工は、昭和五〇年三月二五日、スポートセンターに対し、パチンコ玉自動補給装置を二六〇〇万円で売却したこと、一二月二日付けで、スポートセンターに対し、内容証明郵便にてすでに支払われた額を除く残代金一六三〇万六〇〇〇円の支払を催告したこと、昭和五一年に、売掛代金請求訴訟を提起して勝訴判決を得た上、強制執行まで行おうとしたことが認められるのであるから、右残代金についても昭和五〇年に請求権として存在したことは明らかである。

そうすると、事後的に代金回収が不能となった場合には、回収不能が明らかになった昭和五一年(甲一〇による。)の貸倒れ損失として同年分の事業所得の計算上必要経費として計上すべきものであって(所得税法五一条二項)、昭和五〇年分において計上することはできない。

また、所得税法六三条の「事業を廃止した場合」とは、事業を廃止したことよって、一切の事業収入を生じなくなった場合を指すものと解するのがその趣旨に照らし相当であるから、原告が、昭和五一年においても、ナショナル会館、本町苑等からの事業収入を得ていたことが明らかな本件では、同条を適用する余地はない。

(2) 必要経費について

必要経費については、被告主張各の範囲では当事者間に争いがなく、それ以上に存在すると原告が主張する簿外経費については、いずれもこれを認める足りる証拠はない。

(三)  いすずホールに係るもの

被告主張額のうち、三四九万八四六八円の範囲内では当事者間に争いがなく、証拠(乙一三)と弁論の全趣旨によると、原告は、昭和五〇年中にいすずホールから合計四一五万三九六四円の利益分配金を受け取ったことが認められる。

(四)  青色申告申告控除額 一〇万円

前記二において判示したとおり、本件取消処分には何ら違法はないから、右金額を事業所得金額から控除することはできない。

5  したがって、昭和五〇年分の総所得金額は、九七四三万二八〇三円と認められる。

六  昭和五一年分の総所得金額について

1  推計の必要性の存否について

証拠(乙二八ないし三〇、三九の一、証人伊藤清)と弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

(一)  昭和五一年九月二九日、名古屋国税査察部は、原告に対する所得税法違反の犯則嫌疑で強制調査に着手し、それ以降原告の昭和五一年分の帳簿書類を含む多数の証拠物を押収・領置したこと。

(二)  昭和五三年二月二八日、同査察部は、原告を名古屋地方検察庁に告発し、同年三月八日に公訴が提起されたこと。

(三)  被告係官伊藤清は、昭和五三年七月上旬から八月上旬にかけて、愛知県豊山町役場において、春日井市鳥居松町所在のオークランドへ赴き、同社から原告に対し、簿外給与等が支払われているかどうかの調査を行う等、原告の所得税調査を行ったこと。

(四)  被告係官の伊藤清が、昭和五三年八月上旬ころ、原告の昭和五一年分の事業所得金額の実額把握を目的に、原告の査察事件の証拠資料を閲覧するため同査察部に赴いたところ、同査察部から「査察が収集した資料そのものは、検察へ告発をしたため、すべて地検へ移管し、査察の手元には残っていない。」「現在は公判提出されていないため、本人の同意があっても署(税務署)のほうへ開示することはできない。」等の申出を受け、原告の昭和五一年分の帳簿書類等の閲覧ができなかったこと。

(五)  右所得税法違反被告事件の第一審は、昭和五九年四月二五日に判決の言渡しがされ、その間、原告の昭和五一年分の事業所得金額の実額を把握するに必要な帳簿書類は公判に提出されなかったこと。

以上の事実からすると、被告が、原告に対して調査の上昭和五一年分の更正をした昭和五四年六月一一日当時、被告は原告の昭和五一年分の事業所得金額を実額で把握ずることは不可能であったことが認められるから、推計の必要性があったものと認められる。

なお、証人加藤茂樹は、甲第二号証(昭和五一年分所得税青色申告決算書)を国税局において保管中の関係帳簿を調査して作成し昭和五二年三月一五日に提出した旨供述するが、同号証には「平成」の不動文字が印刷

されており、元号が平成になってから作成されたものであることは明らかであるから、右供述は到底信用することができず、他に、昭和五四年当時、被告において実額を把握することが可能であったとすべき証拠はない。

2  推計の合理性

(一)  被告は、原告の昭和五一年分の所得金額を推計するに当たり、昭和五〇年分のナショナル会館の必要経費三億四六〇七万八一二三円を収入金額四億一五一八万六九七二円で除した割合の〇・八三三五を昭和五一年分の収入金額三億三一四六万四三〇五円に乗じて昭和五一年分の必要経費二億七六二七万五四九八円を算出しているので、以下、その合理性につき検討する。

(1) 原告は、昭和五〇年分のナショナル会館の収入金額が被告主張額の四億一五一八万六九七二円であることを明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(2) そして、昭和五〇年分のナショナル会館の必要経費については、前記五の4(一)(2)で検討したとおり、原告の主張する簿外経費を認定するに足りる証拠はないので、申告額(被告主張額)の三億四六〇七万八一二三円として計算することができる。

(3) 次に、昭和五一年分のナショナル会館の収入金額については、被告主張額である三億三一四六万四三〇五円の範囲内で当事者間に争いがない。

(4) そして、弁論の全趣旨により、昭和五一年におけるナショナル会館の事業内容は、昭和五〇年と同様であったものと認められる。

したがって、被告が必要経費の推計に本人比率法を用いたことには十分な根拠があり、原告の昭和五一年分の推計課税における推計方法は、合理的なものと認められる。

(二)  原告は、被告の推計方法は、財産増減法による検証をしておらず合理性がないと主張する。

しかしながら、被告の用いた本人比率法に何ら不合理な点が認められない以上、さらに他の推計方法について検討することまで要求されるものではないから、原告の右主張は失当である。

3  総所得金額について

(一)  配当所得金額、利子所得金額及び不動産所得金額については、当事者間に争いがない。

(二)  給与所得金額について

給与所得金額については、算定の前提となる収入金額のうち九六〇万円の範囲内では当事者間に争いがない。したがって、以下、それ以上に被告主張額まで存在したかどうかを検討する。

証拠(甲一三、乙一、四ないし七、三五、三六)と弁論の全趣旨によると、原告は、昭和五一年中にニューキングの売上除外金として、別表七のニューキング賞与支払等別明細表記載のとおり合計一一七〇万円を受領したことが認められる。

なお、原告は、これらの売上除外金は、裏で支出した諸費用(ニューキングのパチンコ店開設に当たり要した埋立代、舗装代、井戸代及び暴力団との解決金など、原告がニューキングのために立て替えた金員)を原告が回収したものであり、原告の給与所得金額に結びつくものではないと主張するが、その立替えに係る金額、支払年月日、支払先等について具体的に特定して主張立証をしないので、これを必要経費として認めることはできない。したがって、原告の右主張は、失当である。

そうすると、原告の給与所得金額を算定する前提となる収入金額は、合計二一三〇万円であり、給与所得控除の額三一八万円を控除すると、原告の昭和五一年月日分の給与所得金額は一八一二万円となる。

(三)  事業所得金額について

(1) いすずホールに係るもの

原告が昭和五一年においていすずホールから利益分配金四一〇万七九四五円を受け取っていたことは、当事者間に争いがない。

(2) ナショナル会館に係るもの

<1> 収入金額について

右金額については、被告主張額である三億三一四六万四三〇五円の範囲内で当事者間に争いがない。

<2> 必要経費について

必要経費の額については、前記六2で検討したとおり、被告主張額の二億七六二七万五四九八円と推計することには合理性が認められる。

なお、原告は、甲第二号証を根拠に実額は三億二〇五六万四二五七円であると主張するが、前記六の1で判示したとおり、右主張に沿う証人加藤茂樹の供述及び甲第二号証は信用性に欠け、他に右実額を認めるに足りる証拠はない。

(3) 本町苑に係るもの

本町苑の昭和五一年分における事業所得については、△一〇〇三万二四四二円の範囲内で当事者間に争いがなく、原告は、さらに未払地代一二〇万円及び減価償却費四八万九〇〇〇円を必要経費として差し引くべきであると主張する。

しかしながら、本町苑店舗の減価償却費については、昭和四八年分に関し前記三の2(一)(2)において判示したのと同じ理由で、いずれも必要経費とはとめることはできず、また、本町苑の地代一二〇万円については、これを認めるに足りる証拠がない。

(4) マツナガ機工に係るもの

前記五の3(二)(1)で検討したとおり、スポートセンターに対する貸倒損失金として、△一六三〇万六〇〇〇円が計上されることになる。

(四)  したがって、昭和五一年分の総所得金額は、五三五七万八〇〇七円と認められる。

七  手続的適法性について

以上判示したところによると、本件各係争年分の各更正(昭和四九年分については、審査裁決により減額された後の部分)は、いずれも右三ないし六で認定した各総所得金額の範囲内でされていることになる。

しかしながら、原告は、右各処分には手続的な違法事由が存在すると主張するのて、以下、その点について検討する。

1  原告の反論2(五)(1)について

原告は、国税査察官の調査は国税通則法二四条の「調査」に該当せず、また、国税査察官は同法二七条の「当該職員」には該当しないので、国税査察官の調査資料のみに基づいてされた本件各更正はいずれも違法であると主張するが、国税査察官の調査によって収集された資料を利用して査察の対象となった者に対する課税処分を行うことは許されると解すべきてあるから(前掲最高裁判所判例)、原告の右主張は失当である。

2  原告の反論2(五)(2)について

原告は、昭和四八年分及び四九年分の各更正は、国税通則法七〇条一項の期間である確定申告期限の翌日から三か年を経過してされたものであるから違法であると主張する。

しかしながら、右三の2で認定したとおり、昭和四八年及び昭和四九年に、原告の指示を受けて垣内及び堀内がナショナル会館の売上金の一部を除外していたことが認められるので、右原告の指示及びこれを受けた垣内及び堀内の行為は、国税通則法七〇条二項四号の「偽りその他不正の行為」に該当する。したがって、同条項により、法定申告期限又は日から五年を経過する日まで更正することができるところ、昭和四八年及び四九年分の各更正は、いずれも昭和五三年四月三日付けでされており、法定申告期限又は日(昭和四八年分については昭和四九年三月一五日、昭和四九年分については昭和五〇年三月一五日)から五年を経過する日までにされているのであるから、何ら違法はない。

3  原告の反論2(五)(3)について

原告は、四日市税務署によるニューキングに対する源泉所得納税告知が数回にわたって変更されているから、これに合せて原告に対する昭和四九年分ないし昭和五一年分の所得税の各更正されるべきであると主張する。

しかしながら、源泉所得税納税告知処分と本件各更正とは、別個の処分てあって、前者における判断が後者における判断を拘束するとすべき根拠はないから、両者の判断内容が一致しないことをもって、後者を違法とすることはできない。

したがって、原告の右主張は失当である。

よって、本件各係争年分の各更正は、手続においてもなんら違法は認められない。

八  本件各係争年分の各加算税賦課決定の適法性について

以上判断したところによると、被告の主張4記載の事由があることは明らかであるから、本件各係争年分の各加算税賦課決定は、適法である。

九  結論

よって、原告の本件請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 田澤剛)

別表一

昭和四八年分

<省略>

別表二

昭和四九年分

<省略>

別表三

昭和五〇年分

<省略>

別表四

昭和五一年分

<省略>

別表五の一

昭和49年分 雑所得金額明細表

収入金額

<省略>

必要経費

<省略>

別表五の二

昭和50年分 雑所得金額明細表

収入金額

<省略>

必要経費

<省略>

別表六

昭和48年分 ナショナル会館 売上除額明細表

<省略>

別表七

ニューキング賞与支払等期別明細表

<省略>

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